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東京地方裁判所 平成5年(行ウ)35号 判決

東京都渋谷区代官山町七番八-六〇一号

原告

庄野篤生

右訴訟代理人弁護士

岩崎修

東京都渋谷区宇田川町一番一〇号

被告

渋谷税務署長 古屋勉

右指定代理人

野﨑守

時田敏彦

海老澤洋

大原豊実

江口庸祐

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が原告に対しいずれも平成四年三月一一日付けでした、原告の昭和六三年分の所得税の更正のうち総所得金額三八一七万七三八四円、納付すべき税額一一六七万一五〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定、原告の平成元年分の所得税の更正のうち総所得金額二四六二万八五二二円、納付すべき税額四六八万三二〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定並びに原告の平成二年分の所得税の更正のうち総所得金額一八〇二万八四九八円、納付すべき税額二三七万六五〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が、昭和六三年分から平成二年分までの所得税につき、原告の経営する関連会社に対する貸付けによる利息収入と定期預金の利子を事業に係る収入とし、右貸付資金を銀行等から借り入れるための利子割引料をその経費として、事業所得の計算上生じた損失を他の所得と損益通算し、また、定期預金利子に係る源泉徴収税額を納付すべき税額から控除して申告したところ、被告から、右貸付けは事業に当たらず、定期預金利子は利子所得であり、利子所得が分離課税となった後の源泉徴収税額の控除はできないとして各更正及び各過少申告加算税賦課決定を受けたため、この各更正等の取消しを求めて提訴した事案である。

一  当事者間に争いのない事実等

1  事業所得及び利子所得について

事業所得とは、所得税法二七条一項及び同法施行令六三条が定める各種の事業から生ずる所得であり、金銭の貸付けから生ずる所得が事業所得に当たるか否かは、金銭の貸付行為が所得税法上の事業に該当するか否かによることとなり、事業に該当しない場合には、その所得は雑所得と分類されることになる。右所得が事業所得に該当する場合には、所得税法六九条一項により、所得金額の計算上生じた損失の金額がある場合には、他の各種所得の金額から控除する損益通算ができることとなり、同法五二条による貸倒引当金の繰戻し、繰入れ等が所得金額の計算上考慮されることになる。

また、利子所得とは、所得税法二三条一項に定める所得をいい、同条二項により、その金額は、その年中の利子等の収入金額とされるところ、昭和六三年四月一日以降に支払を受けるべき利子所得に係る課税は、租税特別措置法三条一項の規定により、他の所得と区分して所得税を課す分離課税とされており、源泉徴収されることによって、その課税関係は完結することになる(一律源泉分離課税)から、源泉徴収税額を税額の計算上控除することはできないこととなる。なお、所得税法等の一部を改正する法律(昭和六二年法律第九六号)附則四〇条二項に定める利子所得に関する経過措置により、昭和六三年四月一日以後に支払を受けるべき利子等(普通預金等に係るものを除く。)で同日を含む利子等の計算期間に対応するもののうち、その利子等の計算期間の初日から同年三月三一日までの期間に対応するものの額として政令で定めるところにより計算した金額に相当する部分の利子等については、従前のとおり、総合課税とされているので、この部分に係る源泉徴収税額は、税額の計算上控除されることになる。

2  本件課税処分の経緯(この事実は当事者間に争いがない。)

(一) 原告は、昭和六三年分ないし平成二年分(以下「本件各係争年分」ということがある。)の所得税につき、それぞれ別表一ないし三の確定申告欄記載のとおりの内容の青色申告書による確定申告をし、昭和六三年分の所得税については、平成元年五月一九日、別表一の修正申告欄記載のとおりの内容の修正申告をしたところ、被告は、いずれも、平成四年三月一一日、原告の昭和六三年分ないし平成二年分の所得税につき、それぞれ別表一ないし三の更正欄記載のとおりの更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各更正」及び「本件各賦課決定」という。)を行った。

(二) 原告は、本件各更正等を不服として、平成四年四月三〇日、国税不服審判所長に対して、審査請求を行い、国税不服審判所長は、同年一二月九日付けで、棄却裁決をした。

3  本件課税処分の根拠等

(一) 原告は、本件各係争年分の所得税につき、別表四の貸付先欄記載のとおりの各貸付け(以下「本件貸付け」という。)を行い、これにより同表〈2〉欄(受取利息額)の記載のとおりの利息収入を得たとして、同表〈3〉欄(定期預金利子額)記載の定期預金利子額との合計欄である同表〈1〉欄記載の金額を事業所得の総収入金額とした上、事業所得の必要経費として、同表〈4〉欄(利子割引料)記載の金額を控除し、同表〈5〉欄及び〈6〉欄記載のとおり貸倒引当金の繰戻し及び繰入れをそれぞれ行った後の金額(同表〈7〉欄記載のとおり)を事業所得の損失とし、本件各係争年分の他の所得と損益通算して確定申告及び修正申告をした。

また、右〈3〉欄記載の定期預金利子額は、いずれも三井銀行新橋支店(現さくら銀行新橋東支店)及び三菱銀行田町支店の原告名義の定期預金の利子(以下「本件定期預金利子」という。)であり、原告は同欄のかっこ書記載の金額を本件定期預金利子に係る源泉徴収税額として、申告納税額を算出している。(以上の事実は当時者間に争いがない。)

(二) 被告は、本訴において、原告の本件各係争年分の総所得金額、分離長期譲渡所得金額、源泉徴収税額及び納付すべき税額は、以下のとおりであると主張し、右金額は昭和六三年分については、被告のした更正の総所得金額、納付すべき税額の各金額を上回り平成元年分及び平成二年分については、各更正の金額と同額であるから、本件更正処分は適法であると主張する。

(1) 昭和六三年分

総所得金額 四四〇〇万二三四九円

内訳 利子所得金額 五〇二万七六五〇円

不動産所得金額 三〇一三万八六九九円

給与所得金額 八八三万六〇〇〇円

雑所得金額 〇円

源泉徴収税額 二〇三万八九三八円

納付すべき税額 一四九三万四五〇〇円

不動産所得金額及び給与所得金額は、原告が昭和六三年分の所得税の確定申告書に記載した金額と同額である。

利子所得金額は、原告が右確定申告書において、事業所得の総収入金額に含めて申告した定期預金利子額(別表四の〈3〉欄)のうち、その利子等の計算期間が昭和六三年三月三一日までの期間に対応する部分の金額である(この部分は総合課税の対象となる。)。

雑所得金額は、原告が右確定申告書において、事業所得の総収入金額に含めて申告した受取利息額(別表四の〈2〉欄)から事業所得の経費として申告した利子割引料(別表四の〈4〉欄)を控除した金額であり、本来、一五七万七三一九円の損失となるが、雑所得に係る損失の金額は他の所得の金額から控除することができないので、〇円となる。

源泉徴収税額は、原告の右確定申告書の申告額から、別表四の3欄のかっこ書部分の定期預金利子の源泉税額のうち、総合課税の対象となる昭和六三年三月三一日までの期間に対応する利息に係る源泉税額一〇〇万五五二八円を除く部分を差し引いた金額である。

(2) 平成元年分

総所得金額 五四七七万一一四一円

内訳 不動産所得金額 四四八五万二一四一円

給与所得金額 九九一万九〇〇〇円

雑所得金額 〇円

源泉徴収税額 一一九万〇七九〇円

納付すべき税額 二一一一万〇二〇〇円

不動産所得金額及び給与所得金額は、原告が平成元年分の所得税の確定申告書に記載した金額と同額である。

雑所得金額は、原告が右確定申告書において、事業所得の総収入金額に含めて申告した受取利息額(別表四の〈2〉欄)から事業所得の経費として申告した利子割引料(別表四の〈4〉欄)を控除した金額であり、本来、四七九二万二六一九円の損失となるが、前記(1)と同様に〇円となる。

源泉徴収税額は、原告の右確定申告書の申告額から、分離課税となる別表四の3欄のかっこ書部分の定期預金利子の源泉税額を差し引いた額である。

(3) 平成二年分

総所得金額 四八三七万九五七二円

内訳 不動産所得金額 三七九四万七五七二円

給与所得金額 一〇四三万二〇〇〇円

雑所得金額 〇円

源泉徴収税額 四七万一五〇〇円

納付すべき税額 一七八三万〇二〇〇円

不動産所得金額、給与所得金額及び分離長期譲渡所得金額は、原告が平成二年分の確定申告書に記載した金額と同額である。

雑所得金額は、原告が右確定申告書において、事業所得の総収入金額に含めて申告した受取利息額(別表四の〈2〉欄)と雑所得として申告したベル建物株式会社からの収入一六万九九九九円の合計額から事業所得の経費として申告した利子割引料(別表四の〈4〉欄)を控除した金額であり、本来、三五一一万六六四八円の損失となるが、前記(1)と同様に〇円となる。

源泉徴収税額は、原告の右確定申告書の申告額から、分離課税となる別表四の〈3〉欄のかっこ書部分の定期預金利子の源泉税額を差し引いた額である。

(三) また、被告は、本件各更正により、原告が新たに納付すべきこととなった税額に対して賦課されるべき加算税額は、昭和六三年分については国税通則法六五条一項の規定により、平成元年及び平成二年分については同項及び同条二項の規定により、それぞれ以下のとおりとなり、本件各賦課決定による過少申告加算税の額はいずれもその金額の範囲内ないし同額であるから本件各賦課決定も適法であると主張する。

昭和六三年分 三二万六三〇〇円

平成元年分 二一〇万一五〇〇円

平成二年分 二〇九万六五〇〇円

(四) 原告は、被告の右主張のうち、本件利息収入及び本件定期預金利子の所得区分の点を争うが、その金額及び被告主張の所得区分を前提とした場合の計算等は争わない。

二  争点

本件の争点は、本件利息収入に係る所得が事業所得に該当するか雑所得に該当するか、すなわち、本件貸付けが所得税法上の事業に当たるか否か及び本件定期預金利子に係る所得が事業所得に該当するか利子所得に該当するかというその所得区分の点にある。

1  被告の主張

(一) 本件利息収入の所得区分について

原告の金銭の貸付けについてみると、

(1) 昭和六三年以降の金銭の貸付先は、いずれも原告が代表取締役をしている株式会社ビーエスファンド(以下「ビーエスファンド」という。)及び独研株式会社(以下「独研」という。)の二社(以下、これをまとめて「原告関連二社」ということがある。)のみであること、

(2) 原告は、本件貸付けにつき、担保権設定等による債権保全措置を講じていないこと、

(3) 本件貸付けに係る資金の大部分は、銀行及び原告が代表取締役をしている独研地所株式会社(以下「独研地所」という。)からの借入金であるところ、本件利息収入と本件貸付けのための借入金に係る支払利息を比較すると本件各係争年分のいずれの年分についても本件利息収入の方が支払利息の額(別表四の〈4〉欄の利子割引料)より少ないこと、

(4) 原告は、貸金業者としての事業に係る従業員を雇用していない上、原告の自宅を営業所の場所として東京都知事の貸金業登録を受けていること、

(5) 原告は、広く一般に顧客を求めるための広告宣伝を行っておらず、金融業者の看板も掲げていないこと、などの事情があり(右事実は当事者間に争いがない。)、右の諸事情を総合勘案すると、原告の行った本件貸付けは、営利の目的をもって不特定多数の者に対してなされる金融業としての社会的実態をもったものとは認められず、所得税法上の事業には該当しないというべきである。

(二) 本件定期預金利子の所得区分について

定期預金の利子に係る所得は、事業との関連性の有無にかかわらず、所得税法二三条一項に定める利子所得に該当する。

2  原告の主張

(一) 本件利息収入の所得区分について

原告は、昭和六〇年七月二五日に東京都知事の貸金業の登録を受け、以来、三年ごとに更新をして(この事実は当事者間に争いがない。)、貸金業を営んでいる者であり、さらに、以下の点を考慮しても、本件貸付けはその事業性が認められるべきである。

(1) 本件貸付金額は約一五億円もの巨額に上っており、また、その資金は原告が銀行等からの借入れにより調達していることからみれば、本件貸付けを原告の個人的貸付けとは評し得ない。

(2) 本件貸付けの利息収入額と右貸付資金の借入れのための利息支払額は、昭和六三年以前には利息収入の方が多く、原告はこれを事業所得として申告していたものであり、昭和六三年以降は、たまたま貸付先の経営状態の悪化があり、貸付先の原告関連二社が支払可能な程度の利息にすべく、右二社と利率の引下げの合意をしたため、その利息収入が貸付資金借入れのための利息支払より低くなったが、支払利息を軽減することによって貸付先の倒産等を防ぎ、元本回収を図ることは、事業としては当然の処理である。

(3) 原告は、貸金業の事務所を自宅としているが、原告の収入の大部分を占める不動産賃貸事業の事務所も自宅としているのであるから、たとえ事務所が自宅であっても金融業の営業場所として何ら支障はない。

(二) 本件定期預金利子の所得区分について

本件定期預金は、本件貸付けの資金の借入れのための担保となっているものであり、本件貸付けの事業と一連の関係を有するものであるから、その利子は、事業関連収入と認められるべきものである。そして、本件定期預金利子に係る所得が事業所得である以上、本件定期預金利子に係る源泉徴収税額は、税額の計算上控除されるべきものである。

第三争点に対する判断

一  本件利息収入の所得区分について

1  本件利息収入の所得区分については、本件貸付けが所得税法上の事業に該当するか否かが問題となるところ、金銭の貸付けが所得税法上の事業に該当するか否かは、社会通念に照らして、その営利性、継続性及び独立性の有無によって判断するのが相当であり、具体的には、その貸付口数、貸付金額、利率、貸付けの相手方、担保権の設定の有無、貸付資金の調達方法、貸付けのための広告宣伝の状況その他諸般の状況を総合勘案して判断することとなる(所得税基本通達二七-六参照)。

2  そこで、本件貸付けの状況についてみるに、前記争いのない事実に加え、甲三号証の一ないし一〇、四号証の一ないし三、五号証の一ないし八、六号証の一ないし八、乙一二、一三号証及び原告本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和六〇年七月二五日に貸金業者の登録を行った当時、貸金業の登録を行わなければ金利を取ることができないと考えており、右登録を行う以前からビーエスファンドに対して行っていた貸付けの利息を取りたいと考えたこともあって、右登録を行ったものであり、右登録後、原告は、ビーエスファンドから利息を取るようになった。

(二) 右登録後、原告は、独研に対しても、金銭の貸付けを行うようになった。原告は、右原告関連二社以外には、原告の友人及び知り合いが経営する会社に貸付けを行ったことが二回ほどあるが、いずれも知り合いであったため、担保等を取ることもなく、消費貸借契約書等の契約書を作成することもなかった。昭和六三年以降の原告の貸付先は右原告関連二社のみであったが、右二社はいずれも原告がその代表取締役となっており、実質的には原告一人でその経営を行っている会社である。右二社の経営状態はかんばしいものではなく、昭和六三年以前にも何度か欠損金の申告をしたことがあった。

右二社は、その事業内容及び経営状態から市中銀行からの資金の借入れができず、その資金の借入先は原告のみであり、また、原告が貸金業の登録をした以上それに合わせて貸付金額をわざと大きくしなければならないと考えていたこともあって、右二社に対する原告の貸付金額は、本件各係争年分においては約一五億円ないし一六億円に上っているところ、原告は、その貸付資金の大部分を銀行及び原告が代表取締役である独研地所から借り入れて調達していた。

(三) 原告は、原告関連二社に対する貸付けにおいて、昭和六〇年以降から利息を取るようになったが、その利率は、当初は、その貸付資金の銀行からの借入利率を若干上回る程度であったが、昭和六三年以降は、年率二パーセントに引き下げられ、銀行からの借入利率を大きく下回るようになり、平成三年四月一日からは、年率六パーセントとされたが、それでも銀行からの借入利率を下回っている状態であった。

(四) 原告の貸金業者の登録における営業場所は原告の自宅とされており、原告はそれ以外に貸金業の場所的設備をもたず、また、従業員等も雇用していなかった。原告は、貸金業についての宣伝、広告等を行っておらず、看板等も掲げていない。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

3  右認定のとおり、原告の貸付けは、昭和六三年以降は、原告自らが経営者の立場にあり、原告以外からの借入れを行っていない原告関連二社に対するもののみであり、その貸付けは右二社の運転資金又は事業資金のためのものとみられること、それ以外の貸付けは、昭和六三年以前に、原告の知人ないし知人の経営会社に対するものが二件程度あるのみで、その貸付けも担保等を取ることなく、契約書等をも作成しないいわゆる信用貸しであること、本件貸付けに際しても、担保の設定など事前の債権回収確保の措置を何ら講じていないこと、昭和六三年以降の本件貸付けの利率は、貸付資金を銀行から借り入れる際の借入利率を下回っているため、貸付額を多くすればするほど損失が増える状態となっており、本件利息収入については貸付資金の借入利息の支払を下回っていて、少なくともこの期間に関しては収益性を欠く貸付けとなっていること、貸金業のための事務所や従業員等の独立した物的人的設備は全くないこと、貸金業としての看板の設置や広告宣伝等広く顧客を求める方策を何ら講じていないことなどからすれば、原告が貸金業の登録を行っていたことを考慮しても、なお、原告が本件貸付けを事業として行っていたものとはいえないというべきである。

4  原告は、本件貸付けの金額が多額であり、その資金も銀行等から借り入れているのであるから、事業性が認められるべきである旨主張する。しかしながら、前記認定のとおり、本件貸付けは、原告関連二社では銀行からの資金借入れができなかったため、その経営者である原告が銀行から資金を借り入れてこれを転貸しする形で行われたものであり、原告関連二社の運転資金又は事業資金の調達はほとんど原告からの借入れに頼っていたとみられること、原告には貸金業の登録に合わせて貸付金額をあえて大きくするという意図もあったことなどの事情を合わせ考えると、右貸付金額及びその資金の調達方法を考慮しても、なお、本件貸付けの事業性を認めることはできないというべきであり、原告の右主張は採用できない。

また、原告は、昭和六三年以降の本件貸付けの利率がその貸付資金の借入利率を下回っているとしても、これは、たまたま経営状態の悪くなった原告関連二社の倒産を防ぎ、元本回収を図る手段として貸付けの利率を下げたものであり、それ以前の貸付利率は貸付資金の借入利率を上回っており、その収入を事業所得として申告していた旨主張する。しかしながら、原告関連二社は原告が一人で経営する会社であり、原告に対する金利支払が困難であったとしても、原告が金利支払期限を猶予したり、未払金利を未収金として処理することも可能だったはずであり、収益性自体を失うような利率の引下げを行わなければ、原告関連二社が倒産して元本回収自体が困難となるような事情は全く認められないし、昭和六三年以前に貸付けに係る利息収入を事業所得として申告していたとしてもこのことのみをもって、本件貸付けの事業性を認めることはできないというべきであるから、原告の右主張は採用できない。

さらに、原告は、貸金業の事務所が自宅であっても、原告の所得の大部分を占める不動産賃貸事業の事務所も自宅となっている以上、事業性認定の支障にならない旨主張する。しかしながら、仮に、原告の不動産の貸付けが事業として行われているものであるとしても、ある程度特定された賃借人を相手とする不動産賃貸業と広く顧客を求めることになる貸金業とは業態が異なるというべきであるし貸金業の事務所が自宅であることは、事業を行うに当たっての物的設備の整備状況という観点で問題となるのであり、不動産賃貸業と貸金業の事務所が同一であることが、直ちに本件貸付けの事業性の証左となり得るものでもないから、原告の右主張は採用できない。

5  以上のとおりであるから、本件貸付けが所得税法上の事業として行われたということはできず、本件利息収入に係る所得は、雑所得に該当するというべきである。

二  本件定期預金利子の所得区分について

所得税法二三条一項によれば、利子所得とは、公社債及び預貯金の利子並びに合同運用信託及び公社債投資信託の収益の分配に係る所得をいうとされ、同法二条一項一〇号及び同法施行令二条によれば、預貯金とは銀行その他の金融機関に対する預金及び貯金等であるとされているところ、本件定期預金利子が銀行に対する定期預金の利子であることは当事者間に争いがないから、事業との関連性の有無にかかわらず、本件定期預金利子が所得税法上の利子所得に該当することは明らかである。原告は、本件定期預金が本件貸付けのための資金借入れの担保となっているから、その利子は事業所得である旨主張しているが、右主張は所得税法等の規定に反する独自の見解であり、到底採用できない。

そして、本件定期預金利子が利子所得に該当する以上、昭和六三年四月一日以後に支払を受けるべき利子所得に係る課税は、一部を除いて源泉分離課税とされ、源泉徴収がなされることによって課税関係が完結することは前記のとおりであるから、本件定期預金利子に関してなされた源泉徴収額全額を税額から控除できるとする原告の主張も採用できないこととなる。

三  以上のとおり、本件利息収入に係る所得は雑所得に、本件定期預金利子に係る所得は利子所得にそれぞれ該当し、この所得区分を前提として計算した場合の各金額が被告主張額のとおりとなることは当事者間に争いがないから(なお、昭和六三年分の過少申告加算税については、国税通則法六五条一項、一一八条三項により、新たに納付すべきこととなった税額三二六万三〇〇〇円から一万円未満の端数を切り捨てた額に一〇パーセントを乗じた金額である三二万六〇〇〇円となるが、いずれにしても昭和六三年分の本件賦課決定は右金額の範囲内である。)、その金額の範囲内ないし同額である本件各更正及び本件各賦課決定は適法というべきである。

四  よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとする。

(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 竹田光広 裁判官 森田浩美)

別表一

(昭和六三年分)

〈省略〉

別表二

(平成元年分)

〈省略〉

別表三

(平成二年分)

〈省略〉

別表四

原告の金銭の貸付状況及び収支明細

〈省略〉

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